「夜と霧」という本をご存知でしょうか。
本書は、フランクルが第二次世界大戦中にナチスの強制収容所で過ごした苦難の中から生まれた作品です。本書は1956年に初版が発行され、現在も世界中で読み継がれています。
フランクルは、収容所での過酷な環境の中で、人々がいかに希望を見失い、絶望に陥るかを目の当たりにしました。しかし、彼はその苦しみの中で、自分と向き合い、内なる自由を見出しました。
ユダヤ人の精神分析学者だった作者は、自身のバックラウンドを交えながら人間の最も重要な能力を下記のように記しています。
- 自分しか経験することのないまたとないその時々において、自分自身の態度を選べること
- どんな状況においても、生きることの意味を見出すことができること
と主張しています。本書の中で、フランクルは、絶望や苦しみと向き合いながらも、人生の意味や目的を見つけることの重要性を説いています。現代に生きる私たちに大きな教訓を与えています。
仕事での苦境は、苦しむ価値があるものか考える
私たちが生きる環境は、戦時下の収容所ではありません。
環境が辛くても、苦しみから学び、仕事への向き合い方・考え方を見直すことができます。
例えば、今あなたは、意味も目的もわからない仕事を上司に押し付けられています。そういった状況に違和感を持ちながらも、進めながら目的を考えていくしかありません。
そして、それは今に始まったことではありません。
チームの売り上げを伸ばすことができるわけでも、チームの成長のための肥やしになるかどうかもわからない仕事に対して、意味を見出すことができないような仕事ばかり、あなたに押し付けられるのです。
どうしたら良いのでしょうか。フランクルの言葉の引用です。
人間はどこにいても、運命と対峙させられ、ただもう苦しいという状況から精神的になにかを成し遂げるかどうか、という決断を迫られるのだ
ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」
このメッセージは、決して「仕事に無理をして頑張れ」という意味ではありません。「精神的な何か」について、フランクルの言葉は下記のように続けて説明しています。
- おのれの真価を発揮する機会を生かしたか
- 苦しいことが「苦悩するに値した」か
フランクルは、自分の悩みに向き合って、その苦しさが自分が苦悩するに値すると思えるまで考え抜くことが重要だと説いているのです。
また、フランクルは、有名な哲学者スピノザの下記の言葉を引用しています。
苦悩という情動は、それについて明晰判明に表象したとたん、苦悩であることをやめる
スピノザ「エチカ」-岩波文庫
やるべきことは後先に考えずに無理をおして働くことでも、悩みそのものにぶつかっていくことでもありません。
あなたを苦悩させている状態を、自分の言葉で説明できるようになることで、次に歩むべき方策を考えることができるのです。
かけがえのない、あなた人生を生きることの問いに向き合う
フランクルの言葉を、さらに引用してみましょう
わたしたちが生きることから何を期待するかではなく、むしろひたすら、生きることがわたしたちから何を期待しているかが問題なのだ
ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」
パッと読んだだけではどういうことか、掴みづらい文章です。
もう少し引用をしてみましょう。
生きるとは(中略)、生きることの問いに正しく答える義務、生きることが各人に課す議題を果たす義務、時々刻々の要請を満たす義務を引き受けること(中略)
ヴィクトール・E・フランクル「夜と霧」
そして、それはひとりひとりにたった一度、他に類を見ない人それぞれの運命をもたらすのである
我々が「人生に意味を問う」行為に意味はない、とフランクルは述べています。
その考え方を180度転換して、「あなた自身が生きる意味を問うべきだ」と説明しています。
こう言い換えることもできます。「あなた自身が生きて、今ここで働いている意味を問うべきだ」
なぜ、そのような発想の転換が必要なのでしょうか。
生み出された現在の苦境は、他でもないあなた自身以外誰も経験することもできないからです。
投げやりな言葉にも聞こえるかもしれませんが、彼の言葉は的を得ています。
自分の人生にはいろんな人が関わってくれますが、答えを出せるのはあなたしかいないのです。
何が自分は辛いのかを言葉にする
では、具体的にどのような行動をとっていくべきなのでしょうか。
普段のあなたは、自分の辛さを言葉にする機会はありますか?もしなければ、自分の信頼のおける他者に話を聞いてもらう機会を、設けるようにしましょう
なぜなら、①自分の感情を言語化すること②自分だけの悩みを色んな尺度で客観的に聞いてもらうこと③共感や意見を通じて自分の考えを深めていくことが、悩みを紐解く上で非常に重要だからです。
- なぜあなたは向き合わないといけないのか
- 本当に向き合わないといけないことなのか
- どう向き合うべきなのか
綺麗なリストではなくても、上記のようなことがまとまっていけば、考える材料としては十分です。
自分自身が、十分に悩みに向き合っていると思うことができるはずです。
あなたの悩みは、フランクルが体験したような戦時中の収容所での出来事ではありません。
そこまで考えることができれば、自分がコントロールできないことは誠実な方法で回避することができますし、何らかの方法で環境を変えるための良い手段を、信頼できる人たちと考えることもできるはずです。
人に話す前に困ったら、文字起こしをしておくのも大切です。自分の悩みがすぐにまとまっている必要はなく、むしろ雑多なメモ書きから、自身の考えを汲み取る作業を意識すべきです。
「自分の人生の意味を問う」ことの重要性を強調しましたが、冒頭に記載したようにフランクルの考えには、「どんな人生にも意味を見出すことができる」ことが前提にあるのです。
今回は多く触れることはありませんでしたが、凄惨な現場の中で紡がれたフランクルの信念には、圧倒的な説得力があります。興味のある方は一度読んでみることをお勧めします。
この記事では、「夜と霧」の魅力やメッセージについて詳しく掘り下げていきました。自分にとって意味のある人生の選択について深く考えるきっかけとなれば嬉しいです。
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